妙にかしこまった文章と、奇想天外でバカバカしい物語がたまらない・・・!
人気作家・森見登美彦の代表作といえばこの作品でしょう。
「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。
けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。
そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。
山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。
『夜は短し歩けよ乙女』というセンスのいいタイトルと中村祐介のイラストが売れた要因のひとつでしょうね。
アニメ映画化もされて未だに根強い人気を誇る作品です。
ぼくはこの作品を読んですっかり森見登美彦のファンになってしまいました。
やけにかしこまった文章で描かれる奇想天外でバカバカしい物語。
これこそ面白い小説であり、小説だからこそ出せる面白さです。
モテない”先輩”が大学の後輩の”黒髪の乙女”に想いをよせる
ぼくは森見登美彦の作品をこれを含めて2作しか読んでいないのでよく知らないのですが、森見登美彦はモテない腐れ大学生を書かせたら右に出るものはいないくらいの作家のようです。
この作品では大学の後輩の”黒髪の乙女”に同じクラブの”先輩”が密かに思いを寄せていて、なんとか彼女の気をひこうと夜の町や古本市、学園祭と奮闘していく様子が描かれています。(2人ともなんて名前なのかは明かされていない)
彼女が後輩として入部してきて以来、すすんで彼女の後塵を拝し、その後ろ姿を見つめに見つめて数ヶ月、もはや私は彼女の後ろ姿に関する世界的権威と言われる男だ。
後ろ姿の世界的権威って・・・!笑
先輩がモテないとはっきり書かれてはいないですが、まあこんなこと言ってるくらいだからモテないんでしょう。
そのうえ先輩が彼女を振り向かせるために実行している”ナカメ作戦”というものがあるのですが、これは
- ナ・・・なるべく
- カ・・・彼女の
- メ・・・目に止まる
というものなんですから話にならない。恋愛偏差値0ブロガーのぼくですらダメなのが分かります。
でも思えば学生のころのぼくがやっていたこともこんな感じでしたね・・・
そうして気づけば恋愛偏差値0のまま26歳に。って、ぼくのことはどうでもいいですよね。
こういうとモテない先輩が主人公のように思えますが、この物語の主人公はあくまでも”黒髪の乙女”であり、彼女が夜の町や古本市で自由奔放に過ごしている裏で先輩はなんとか彼女に近づこうと奮闘します。
しかしどういうわけかことごとく厄介事に遭遇して彼女にさっぱり近づくことができません。
もはや”ナカメ作戦”すら実行できない有り様です 笑
読者諸賢におかれては、彼女の可愛さと私の間抜けぶりを二つながら熟読玩味し、杏仁豆腐の味にも似た人生の妙味を、心ゆくまで味わわれるがよかしかろう。
願わくば彼女に声援を。
この物語は自由奔放な彼女の姿と、なんとか彼女に近づこうとするもことごとく失敗し、理想とするロマンチック街道を進むことができない先輩の姿が交互に描かれる形で進んでいきます。
2人の他にも天狗を自称する樋口清太郎、「古本市の神」や「パンツ総番長」、「詭弁論部」に「ごはん原理主義者VSパン食連合」といった名前からして面白そうな感じしかしない個性的なキャラクターがどんどん出てきます。
森見登美彦特有のクセの強い語り口や言い回しと合わさって、とにかく読んでいて楽しくてしょうがない!
いろんな小説を読んできましたが、こんな感覚は初めてです。
”黒髪の乙女”の天然っぷりに微笑ましくなる
ここまでモテない先輩の話ばっかりしてきましたが、肝心の”黒髪の乙女”はどんなキャラなんでしょうか?
彼女の性格を一言で言うなら「ピュアで天然」ということになるでしょう。
たとえば彼女が先輩の結婚祝いのパーティーに出た後、お酒を飲みに夜の先斗町(ぽんとちょう)でとあるバーに入った時。
彼女は飲んでいる最中に見知らぬ中年男性に声をかけられます。
「ねえ、君。何か悩み事でもあるんだろ。そうだろ」
私には、咄嗟に言い返す言葉もありません。なぜなら、悩みがないからです。
私が黙っていると、その人物は
「悩みがあるなら、ミーに言うてミー」と言いました。
大変巧みな洒落を言う方だなと、私は感服しました。
これは物語の最初のほうでのワンシーンでまだ彼女のことがよく分かっていない段階だったので、てっきり寒い洒落を言っていることをおちょくっているのかと思いました。
しかし読み進めて彼女のことを理解していくうちに彼女が本心でそう思っていたことが分かってきました。
でもよく考えたら感服はしてるけど笑ってはないですね←
同じ男性についてはこんなことも。
その人は、東堂さんと言いました。
痩せてヒョロヒョロしており、長い顔に無精髭が伸びて、きゅうりの尻尾へ砂鉄をまぶしたようです。
どんな顔だ。失礼だろ 笑
でも彼女は悪気なく感じたままの特徴を言っているにすぎません。
彼が身を寄せてくる際に鋭く鼻をつくのは、殿方用香水の香りでしょうが、ありのままの東堂さんが発散する野性的香りも、またその後から猛々しゅう溢れ出してきて、香水の戦慄な香りと混じり合って、悪夢的な奥深さを醸し出します。
私は考えました。
ひょっとすると、この多重族の奥深い匂いが、大人の男の香りなのかしら。
この人こそ、巷でしきりに噂される、あの”ナイスミドル”なのかしら。
違います。
単に臭いだけです。そして彼は”ナイスミドル”とは対極にいる人です。
誰か彼女に教えてやってくれ 笑
なんだか心配になってしまうほどピュアで天然な彼女ですが、人との出会いに恵まれて(?)いたため、それはそれは面白おかしいことを体験していきます。
ここまで天然な彼女ですから”ナカメ作戦”を実践している先輩に3日に1度くらいのペースで町でばったり会うことも奇遇だと思っている始末。
「奇遇ですねえ!」と言われるたび、先輩は「たまたま通りかかったものだから」と返しています。なんだか可愛そう←
でも普通ならこんなに頻繁に遭遇していたらストーカーを疑われてもおかしくないんですから、先輩は彼女の脅威の天然っぷりに救われているのかもしれませんね 笑
内容はほどんどない。でも面白い
大いに物語を楽しんで幸せな気分に浸っていたぼくですが、読後に落ち着いて考えるとあることに気づきました。
そう、この物語は内容がほとんどないのです。
4つの章に分かれている物語なんですが、たとえば第1章なんてほとんど飲み歩いているだけですからね 笑
それでもこんなに面白く描くことが出来ているのは、あまりにも独特な語り口と奇想天外な物語、クセの強いキャラクターに惹きつけられているからに他なりません。
森見登美彦の小説家としての力量が伺えますね。恐るべし。
この作品は山本周五郎賞を受賞していて、審査を努めた伊集院光は「天然を最後まで描ききった」ことを評価しているそうですが、めちゃくちゃ分かります。
彼女の天然っぷりこそがこの物語の肝と言えるでしょう。
さすがに彼女に恋をするとまではいかないですが、彼女の姿をなんだか微笑ましい気持ちで見守ってしまいます。
彼女が嫌いな読者なんているんでしょうか?
この物語が嫌いだというなら、それは森見登美彦の言い回しが合わないだけでしょうね。
森見登美彦の入門編としてもおすすめ!
ぼくはこの作品が2作目の森見作品なので、まだまだ森見登美彦には疎い状態です。
そんな立場からいうと森見ワールドをよく知らないぼくでも十分に楽しめたし、森見登美彦のもつ独特の魅力も味わい尽くせました。
すっかりファンになってしまったので、彼の他の作品も読んでみたいと思っています。
森見登美彦を読んだことのない人でも楽しめるし、森見作品の入門編としてもピッタリ。
森見ワールドを堪能してみてください!







