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佐藤正午「月の満ち欠け」のあらすじと感想。『前前前世』がよく似合う大人の純愛物語

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こんにちは、リュウです。

2017年上期に直木賞を受賞した佐藤正午さんの「月の満ち欠け」を読みました。

 

このタイトルはどういうことなんだと不思議でしたが、読んでみるとめちゃくちゃキレイなタイトルだということが分かります。

 

 

 

あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──

目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか?

三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。

この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。

 

(Amazonより引用)

 

 

三人の男と一人の女性を巡る生まれ変わりの物語。

設定はそこまでめずらしいものではないですが、読んでいて不思議と引き込まれていきました。

 

そして読み終えたとき、いや読んでいるときから感じてましたがラストシーンを読んでこう思いました。

 

これ、『前前前世』 そのものじゃん 

 

 

 

 

 

「月の満ち欠け」のあらすじ

物語は3人の男性の視点が順に入れ替わりながら進んでいきます。

そして3人が共通して関わっていくのが一人の少女です。

 

最初に登場するのが小山内堅。

彼は大学時代に知り合った高校の後輩でもある『藤宮梢』と交際を始めます。

小山内が卒業後に石油元売の中堅どころの企業に就職してからは遠距離で交際を続けていました。

 

やがて二人は結婚し、ほどなくして梢は妊娠。 

 生まれてきたのは女の子で、二人は娘に「瑠璃」と名付けました。

これは「瑠璃も玻璃も照らせば光る」という格言に基づくものでした。

この「瑠璃」という名前と由来である格言は物語において重要な意味を持っています。

 

夫婦仲が悪いということもなく幸せな生活を送っていましたが、瑠璃が7歳を迎えたある日ひどい高熱を出して寝込んでしまいます。

風邪と思われましたが、一週間たっても熱が下がらず原因が分かりませんでした。

 

しかし一週間が過ぎると何事もなかったかのように突然良くなって瑠璃は元気を取り戻しました。

この直後から瑠璃には奇妙な異変が見られ始めます。

 

「・・・なんだかあの瑠璃が、急におとなしくなったみたいで」

「元気がないという意味か?」

「そうじゃない。元気がないとか、そういうんじゃない。おとなしくじゃなくて、どう言うのかな、たぶん、おとなびる?」

 

梢の心配を小山内はそれほど気にしていませんでしたが、その後も梢から瑠璃の異変についての話を次々聞かされます。

 

瑠璃が生まれるずっと前に流行っていて知るはずのない『黒ネコのタンゴ』を歌っていたこと

小山内にも梢にも分からないライターの銘柄をひと目で見分けたこと

ライターの石の交換方法が分かること など。

 

梢は瑠璃の異変を必死に小山内に訴えましたが、そのいずれも小山内は気に留めませんでした。

どこで覚えたのか不思議に思いつつも、子どもは急に成長するものだと解釈していたのです。

 

この時二人は知るよしもありませんでしたが、瑠璃は高熱から回復した時に前世での記憶を取り戻していたのです。

 

前世でも「瑠璃」という名前の女性として生きていて、その時彼女は27歳。

瑠璃の異変はすべて前世での記憶を取り戻したことが原因だったのです。

  

この瑠璃の異変までの流れを読んでいるとミステリー小説のようにも思えてきます。

しかしこの異変の理由は早い段階ではっきりしますし、ミステリー要素はそれほど重要ではありません。

 

その後前世での「瑠璃」と関係のある「三角哲彦」や「正木竜之介」が登場してからは生まれ変わってもたった一人を愛そうとする純愛物語に姿を変えます。

 

「月の満ち欠け」の感想

生まれ変わりが本当にあるんじゃないかと思えてくる

「月の満ち欠け」は生まれ変わりが重要な要素となっています。

物語の中の会話によると世界中で前世の記憶が残っていることを思わせる事例がいくつも報告されているらしいですが、それでもかなり非科学的なものです。

  

生まれ変わりも含めてフィクションなのですが、読んでいると段々これは本当に起こりうる話なんじゃないかと思えてきます。

生まれ変わりはぼくたちの身の回りでも起きていて、その兆候を見逃しているだけじゃないかと思わせる説得力があるのです。

 

ぼくは色んな小説を読んできましたが、表現の上手さとかそういうのはよく分かりません。

だから感覚的にしか言えませんが、「月の満ち欠け」の文章にはなんだか不思議な力があります。

 

描かれている場面はほとんどがぼくたちが日々送っている日常と変わらないものでしたし、心理描写が鋭いとか際立ったものは感じませんでした。

普通の日常を描いているのに文章に引き込まれていくのです。

 

生まれ変わりが本当にあるんじゃないかと思わせられるのも佐藤正午さんの文章力によるものなんでしょう。

キレイな文章、でもそれだけじゃない奥深さがあるのが特徴です。 

 

生まれ変わりにちょっと無理がある

27歳で死んだ瑠璃が生まれ変わって前世での恋人に会いに行こうとするのですが、運命のイタズラとでもいうのかなかなか会うことが出来ません。

あとちょっとで会えるというところまでいっても何らかの障害がおきて、次のチャンスまでは年単位の時間がかかってしまいます。

 

内容紹介には『戦慄と落涙のラスト』って書いてあるので一体何が起きるんだと思いましたが、特に戦慄するようなこともなく誰もが期待した通りであろうラストを迎えます。

 

ですが落ち着いて考えてみると、この物語の生まれ変わりはちょっと無理があるような気がします。

 

前述したとおり生まれ変わりはほんとにあるように思わせられるし、非科学的だとかそういうことを言っているわけではありません。

ただ単に「ちょっと厳しいかな・・・?」という程度です。

 

細かいところが気になってしまうのはぼくの悪い癖です。

こういうところがなければもっと小説を楽しめるんでしょう←

 

瑠璃の行動が怖い?

この記事を書くにあたって他の人はどんな感想をもったのかを調べてみたのですが、純愛として感動する人が多い一方で、生まれ変わり後の瑠璃の行動がストーカーじみてて怖いという意見もありました。

 

ぼくは普通に純愛として受け止めていたので、そんな感想があることにびっくりしました。

むしろストーカーじみてて怖いのは「正木竜之助」の方じゃないですか?

 

うーん、純愛と受け止めるかどうかについては評価が別れるところなのかもしれませんね。

 

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「月の満ち欠け」の考察(ネタバレあり)

戦慄と落涙のラスト』っていうのを意識して読んでいたので、「これって戦慄のラストの伏線じゃないか?」と思うところがいくつかありました。

 

結局はぼくの想像した展開にはならなかったのであくまで想像の範囲ですが、こういうことも考えられるんじゃないでしょうか?

 

ここからはネタバレがあるので、未読ならスルーしておいてください。

  

正木竜之助の死

瑠璃の前世での夫だった正木竜之助は女児誘拐の罪で逮捕されたのち、刑務所の中で亡くなりました。

短い遺書のようなものも残されていたといいます。

 

詳しいことは語られていないので分かりませんが、遺書のようなものがあったのなら自殺の可能性があります。

そして遺書に書かれていたのはかつて自殺した同僚が書き残した「ちょっと試しに死んでみる」というのと同じようなことだったんじゃないでしょうか。

  

瑠璃は正木が知る限りでも2回生まれ変わっています。

2回生まれ変わっているのならもう一度生まれ変わる可能性があると考えてもおかしくはありません。

 

正木は瑠璃が生まれ変わってくることを確信して、自分も生まれ変わろうとしたのではないでしょうか。

瑠璃に会うため、というよりは自分の妻を寝取った三角への復讐の気持ちからです。

ですがもしそうだったとしても正木は生まれ変われないのではないかと思います。

 

瑠璃の他に小山内の妻である梢も生まれ変わっていると思われますが、二人に共通しているのは前世で恋人・夫に深い愛情を抱いていたということです。

 

正木はどうかというと浮気もしていますから、本当に瑠璃のことを愛しているか疑問が残ります。

それよりも自分の人生を壊された(と思っている)ことで瑠璃と三角にたいする憎しみのほうが強いです。

だから正木は生まれ変われないし、瑠璃と再び会うことはもうないだろうと思います。

 

三角はなぜ約束の時間にあらわれなかった?

前世の瑠璃の恋人である三角は約束の時間を一時間半過ぎてもあらわれず、物語のラストまでリアルタイムでは登場しませんでした。

物語の冒頭で三角は仕事を抜けて約束のカフェにやってくる予定だということが明かされているので、ただ単に仕事が終わっていないだけかもしれません。

 

瑠璃はあと一歩のところで三角と会えないということが何回もありました。

今までは瑠璃が事故に会って命を落としたことが原因でしたが、同じことが三角にも起きないとは限りません。

  

三角があらわれなかったのは彼の命にかかわる何らかのトラブルがあったのではないでしょうか?

一時間半という遅れは三角の身に何かあったとしても不自然ではありません。

 

しかしもし三角が死んでしまった場合、このまま終わるとは考えられません。

瑠璃も小山内にたいして「生まれ変わりは私だけとは限らない」と言っていました。

三角も瑠璃に強い愛情を抱いていますから、瑠璃と同じように月のように生まれ変わるでしょう。

 

そうなった場合、瑠璃はこの時点で7歳だったのだから三角との年齢差は7歳です。

二人は再び7歳差の状態で出会って、前世のときと同じように恋人として付き合っていけます。 

 

物語のラストでは三角と瑠璃の年齢は50歳以上離れています

とても恋人として付き合っていける年齢ではありません。

だから三角も生まれ変わって瑠璃と再会するっていうほうが理想的な展開じゃないかと思うのですがどうでしょうか?

 

「月の満ち欠け」まとめ

正直にいうとぼくは純愛物が苦手です。

あまりにもキレイすぎてファンタジーめいているというか、恋愛っていう誰もが経験するものを描いているのに現実感がなさすぎると思うんですよね。

 

そんなぼくですが「月の満ち欠け」は十分すぎるほど楽しめました。

今後はあまり読んでいなかった恋愛物を読んでみるのもいいかもと思えました。

 

恋愛小説を読むことが少ない人にこそ「月の満ち欠け」はおすすめ。

貴重な読書体験になること間違いなしです。

 

 

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