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子ども×森見節は最強だから。森見登美彦「ペンギン・ハイウェイ」のあらすじと感想

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子どものころに思い描く不思議な世界。
そんな空想を小説で形にしたのが森見登美彦の「ペンギン・ハイウェイ」です。

いやー、もうだめですね。
ぼくはこれが森見登美彦の三作目に読んだ小説なんですが、完全に虜になってしまいました。

これまで「腐れ大学生」ばかり書いていた森見登美彦ですが、今作の主人公は小学生の男の子です。
いったいどんな感じになるのかと思っていましたが、これがもう見事なもの。

森見登美彦の新境地はちょっと不思議で、最後はホロッとさせられる切ない物語でした。

ちなみにこの作品はAmazonが提供しているオーディオブックサービス「Audible」で聴くことができます。
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「ペンギン・ハイウェイ」のあらすじ

ぼくはまだ小学校の四年生だが、もう大人に負けないほどいろいろなことを知っている。
毎日きちんとノートを取るし、たくさん本を読むからだ。

ある日、ぼくが住む郊外の街に、突然ペンギンたちが現れた。

このおかしな事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした──。

少年が目にする世界は、毎日無限に広がっていく。第31回日本SF大賞受賞作。

(Amazon商品紹介より)

主人公のアオヤマ君は小学生でありながらもかなり勉強家で研究熱心。

毎日本を読んで昨日の自分より賢くなる努力を怠らないし、「プロジェクト・アマゾン」「スズキ君帝国(クラスメイトのこと)」「妹わがまま記録」などたくさんのことを研究しノートに記録。
本人いわく「日本一多忙な小学生」でした。

そんな彼の住む郊外の街である日不思議な現象が起き始めます。
アオヤマ君の通う小学校の通学路の途中にある空き地に突如大量のペンギンが出現したのです。

キュウキュウ、キシキシと、学校の床を鳴らすような音が聞こえてきた。

広々とした空き地の真ん中にペンギンがたくさんいて、ヨチヨチと歩きまわっている。(中略)

あとから調べてみると、それはアデリーペンギンだった。
南極とその周辺の島々に生息していると、本には書いてあった。
郊外の住宅地には生息していない。

街に突如現れたペンギンは大きな話題になりましたが、その日のうちにトラックで空き地から運び出されます。
しかし街を抜けトラックの荷台を空けると、大量にいたはずのペンギンは1羽残らず消失。
トラックで運んでいる最中にペンギンは突然消えてしまったのです。

この不可解な現象を研究をするうち、アオヤマ君はペンギンの正体を突き止めます。

その鍵を握っていたのは彼が通う歯科医院で働く「お姉さん」。
アオヤマ君は彼女が投げたコーラの缶がペンギンに姿を変える瞬間を目撃したのです。

一旦白くなった部分が泡立つように見えたと思うと、黒く変色する。
全体がプーッと息を吸い込んだように大きさを増す。
弾けるようにして、真っ黒な翼が側面から飛び出す。(中略)

モタつくようにして起き上がったコーラの缶は、もうコーラの缶ではなかった。

黒い翼を不器用に振りながら、コーラの缶だったものはヨチヨチと少し歩いてみて、そして「ここはどこ?」と思案するように青い空を眺めて立ち尽くした。

それがペンギン誕生の瞬間だったのだ。

ペンギンを作る瞬間を見せたお姉さんは「この謎を解いてごらん。どうだ、君には出来るか?」と投げかけます。

こうしてアオヤマ君は新たにペンギンと彼らの目指す先を調べる「ペンギン・ハイウェイ研究」を開始

街の森の奥に発生した巨大な海のことも一緒に研究していくうち、すべての原因のつながりと原因を解明。

その真相はあまりにも切なく、アオヤマ君にとって忘れることの出来ないものとなりました。

 

「ペンギン・ハイウェイ」の感想

子供の主人公と森見節が相性抜群

森見登美彦の小説の特徴といえばやはりあの独特の語り口。

一度でも彼の小説を読んだことのある人なら、文章を読んだだけで「これは森見登美彦の小説だ!」と分かってしまいます。
よく言えば個性的、悪く言えばクセが強いのが森見登美彦の小説です。

彼の小説は現実世界を舞台にしながらもファンタジー色の強い不思議な物語が多くあります。
その作風にあの独特な語り口は合っているんですが、ちょっぴり違和感もあるんですよね。
「読者初見、お久しぶりである」とか語りかけてくるのはちょっと変です 笑

しかしペンギン・ハイウェイの主人公は小学4年生の男の子。
これがもう森見登美彦の文章とめちゃくちゃ合ってるんですよ!

小学4年生を森見登美彦の文章で描くことによって、「偉ぶっている子供」という形が自然と出来上がります。
だから今までの作品であった違和感がまったくなく、自然と読むことができました。

あと偉ぶっている子どもって、ちょっと生意気だけどかわいいですよね 笑
主人公としてのキャラもかなり引き立っていました。

ミステリー?ファンタジー?最後は切ない

ペンギン・ハイウェイは第31回日本SF大賞を受賞しています。

だからSFなのかな?と思って読み始めましたが、SFって感じはしません。
舞台は現代にある郊外の町だし、近所の森を探検するくらいで特に大冒険しているわけでもない。

不思議な力をもつお姉さんが出てくるからファンタジー?
でもその不思議なことの原因をひとつずつ突き止めていくから、ミステリーともいえるような・・・
個人的にはSFミステリーって感じがしっくりきます。

アオヤマ君が研究しているペンギンの謎は物語の最後まではっきりしません。
むしろ研究を進めれば進めるほど新しい謎が出てきて、「これどう話をまとめるの?」と心配になりました 笑

それでも最終的に答えを見つけ出すのですが、その真相はかなり切ないもの。

さっきペンギン・ハイウェイのことをSFミステリーって表現しましたが、読み終えた時ぼくは「これってアオヤマ君の初恋の物語だったのかな・・・?」と感じました。

森見登美彦…やってくれるなぁ。。。

おっぱいを連呼するところが森見登美彦らしい 笑

以前までの作風とは異なるものである一方、「どうしようもない男だな」と思わせる森見登美彦らしさは健在です。

アオヤマ君は小学生ながらもかなりのおっぱい好き。
丘の形をおっぱいのようだと思ったり、近所で売っているケーキのことを「おっぱいケーキ」と呼んでいたりと、至る所でおっぱいが登場してきます。

アオヤマ君曰く「一日ほんの30分ほどおっぱいのことを考えている」らしいですが、それは多すぎ。小学生ならなおさらです←
まあ文章を見る限り性的な興味というより、物に対する興味って感じですが・・・

そして、ある意味ライフハックと言えなくもない発言も飛び出しています。

「怒りそうになったらおっぱいのことを考えるといいよ。
そうすると心が大変平和になるんだ」

やったことないけどそうかもしれない。
イライラしながらおっぱいのことは考えられないでしょう 笑

「アオヤマ君は怒らないんだね」

「おっぱいのことを考えているからね」

胸を張って言うことではない(^_^;)

いや、おっぱい=胸だからこんなことを言うわけじゃないですよ?
そもそもこの見出しだけで何回おっぱいって書いたんだろう 笑

未回収の謎が多い

ぼくとしてはかなり楽しめたしすっかり森見登美彦の虜になった感じすらあります。
読んでない小説はまだいっぱいあるので、早くそれを読みたい気分です。

ただこの作品にも不満に思うところはあって、それは未回収の謎が多いということ。
ぼくはそこまで気にしてないのですがこれを不満に思う人も多いようです。

一言でいうと「お姉さんは何者だったの?」という謎。
多分1番気になるところだとなんですが、それは最後まで分からないままになっています。

でもお姉さんの正体が謎のままだからこそあのラストが生まれているようにも思うので、ここは明らかにならないからこそ意味があるのかもしれません。

 

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