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音と呼吸が聴こえる小説。恩田陸「蜜蜂と遠雷」のあらすじと感想

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こんにちは、リュウです。
2017年に本屋大賞と直木賞をW受賞した「蜜蜂と遠雷」を読みました。
今年の秋に映画化も予定されている人気作です。

ぼくは学生時代吹奏楽部だったのでこういった音楽をテーマにした作品は大好きなのでかなり期待して読みました。

が、読んでみるともう想像以上。あまりの面白さに圧倒されてしまいました。

小説を読んでいるだけなのにピアノコンクールの熱量を体感したかのように錯覚させられます。
これはほんとにすごい。絵も一切ない小説ですからね?

音楽に詳しい人、そうでない人も圧倒させられるとんでもない作品です。

『蜜蜂と遠雷』のあらすじと登場人物を紹介

『蜜蜂と遠雷』は芳ヶ平(よしがえ)国際ピアノコンクールを舞台にした物語です。
3年毎に開催され優勝者が世界的なコンクールで優勝する実績もあり、注目度が増しているコンクールです。

物語はこのコンクールの出場する4人のピアニストを中心としています。

  • 伝説的ピアニストのただ1人の弟子の少年
  • 社会人として働きながらコンクールに出場する男
  • 全米随一の音大で1番の人気・実力を誇る男
  • コンクールから姿を消していたかつての天才少女

4人はお互い時に刺激しあい、時に葛藤しながらコンクールでの優勝を目指して戦っていきます。

作者の恩田陸さんが5年かけてコンクールに通い取材を重ねただけあって演奏中はもちろん、結果発表の場面や他の出場者の演奏を聴いている様子までがリアルに描かれています。

登場人物① 風間塵(かざまじん)

数多くのピアニストが尊敬の念を抱いている伝説的ピアニスト・ユウジ=フォン・ホフマン。
弟子をとらないことで有名でしたが、ホフマン氏が亡くなる前に書いていて推薦状を持って1人の少年がコンクールのオーディションに出場してきました。

それが風間仁。ホフマン氏は遺言として「爆弾をセットしておいたよ」と言い残していました。

皆さんに、カザマ・ジンをお贈りする。
文字通り、彼は『ギフト』である。恐らくは天から我々への。

だが勘違いしてはいけない。
試されているのは彼ではなく、私であり、皆さんなのだ。
彼を『体感』すればお分かりになるだろうが、彼は決して甘い恩寵などではない。

彼は劇薬なのだ。
中には彼を嫌悪し、増悪し、拒絶するものもいるだろう。しかし、それもまた彼の真実であり、彼を『体感』するものの中にある真実なのだ。

彼を本物の『ギフト』とするか、それとも『厄災』にしてしまうのかは、皆さん、いや、我々にかかっている。

ホフマン氏が『劇薬』と呼ぶ風間塵はTシャツのコットンパンツという格好で物珍しそうにステージや客席を見回しながら登場しました。
その辺にいる子どもにしか見えない彼の姿に審査員3人はあっけにとられます。

しかし彼の演奏がピアノに向かった瞬間、審査員たちは恐怖を覚えました。

なんだ、この恐怖は?
その恐怖は、少年が最初の音を発した瞬間、一瞬にして頂点に達した。(中略)

違う。音が。全く違う。
三枝子は、彼が引き始めたモーツァルトが、今日これまでにさんざん聴かされたのと同じ曲だということに気づかなかった。
同じピアノを使っているのに。同じ譜面を使っているのに。

もちろん、そんな経験は今までにも数え切れないほどある。
同じピアノでも、素晴らしいピアニストが弾けば、全く違う音に聞こえるのはよくあることだ。

だか、しかし。この子の場合は。
なんて凄まじい ー なんて、おぞましい。

風間塵の演奏後はスタンディングオペレーションの大喝采。
しかし彼の演奏は審査員の間でも絶賛するものがいる一方、強烈な嫌悪感を覚えるものもいて、ホフマン氏が推薦状に書いていたとおり『劇薬』と呼べるものでした。

彼の演奏はコンクールを飲み込んでいき、審査員や出場者たちに大きな影響を与えていきます。

演奏曲目はこちら。

第一次予選

  • バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第一巻第一番ハ長調」
  • モーツァルト「ピアノ・ソナタ 第十二番ヘ長調K 332」第一楽章
  • バラキレフ「イスラメイ」

第二次予選

  • ドビュッシー「十二の練習曲・第一巻第一番 五本の指のための/ツェルニー氏の倣って」
  • バルトーク「ミクロコスモス第六巻より6つのブルガリア舞曲」
  • 菱沼忠明「春と修羅」
  • ショパン「スケルツォ第三番嬰ハ短調」

第三次予選

  • サティ「あなたがほしい」
  • メンデルスゾーン「無言歌集より 春の歌 イ長調 OP. 62-6」
  • ブラームス「カプリッチョ ロ短調 OP. 76−2」
  • ドビュッシー「版画」
  • ラヴェル「鏡」
  • ショパン「即興曲 第三番ト長調OP. 51」
  • サン=サーンス/風間塵「アフリカ幻想曲OP.89」

本戦

  • バルトーク「ピアノ協奏曲 第三番」

 

登場人物② 栄伝亜夜(えいでんあや)

毎年世界各地で湧いてくる天才少年や天才少女。
栄伝亜夜もその1人で、内外のジュニアのコンクールを制覇しCDデビューも果たし、神童と呼ばれる存在でした。

しかし彼女が13歳の時、指導者としても導いてくれていた母親が急死。
亜夜は母親の死によってピアノを弾く理由を失ってしまいました。

いつも駆け出したいのをこらえなければならないほど、彼女はあの箱の中に詰まった音楽を見ていたのだ。そして、彼女がイキイキとした音楽をとりだすことを、何よりも、誰よりも喜んでくれる母がいた。

しかし今は。

がらんとした、空っぽの、墓標。しんと静まり返り、ひたすら沈黙と静寂に身を委ねている黒い箱。

あそこにもう音楽はない。あたしにとっての音楽は消えた。
冷たい確信が黒い塊となって、彼女の中にすとんと落ちたとたん、彼女はくるりと踵を返していた。(中略)

客席のざわめきも、誰かの叫び声も耳に入らなかった。
彼女は走って、走って、走った。

ドタキャンしたステージを最後に亜夜は表舞台を去り、「消えた天才少女」となりました

そんな亜夜のもとを母と音大で同期で名門私立音大の学長をしている浜崎が訪ねてきたことがきっかけで、彼の音大で再び音楽を始めます。
そして浜崎の意向もあって、亜夜は芳ヶ平国際ピアノコンクールに出場することになりました。

「消えた天才少女」が表舞台に再び現れたということで亜夜の存在はコンクールでも一際注目を浴びます。
コンクールでの演奏を通して亜夜は母親の死後眠っていた音楽への情熱と才能を覚醒させていきます。

演奏曲目はこちら。

第一次予選

  • バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第一巻第五番二長調」
  • ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ 第二十六番 告別 変ホ長調」第一楽章
  • リスト「メフィスト・ワルツ第一番 村の居酒屋の踊り」

第二次予選

  • ラフマニノフ「絵画的練習曲音の絵OP. 39-5 アパッショナート変ホ短調」
  • リスト「超絶技巧練習曲 第五曲 鬼火」
  • 菱沼忠明「春と修羅」
  • ラヴェル「ソナチネ」
  • メンデルスゾーン「厳格なる変奏曲」

第三次予選

  • ショパン「バラード 第一番ト短調OP.  23」
  • シューマン「ノヴェレッテンOP. 21第二番ニ長調
  • ブラームス「ピアノ・ソナタ第三番ヘ短調OP. 5」
  • ドビュッシー「喜びの島」

本戦

  • プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第二番」

 

 登場人物③ 高島明石(たかしまあかし)

28歳で芳ヶ平国際ピアノコンクールの出場者の中では最高齢。
ずば抜けた天才少年ではなかったものの将来を期待され音大まで進んだものの、最高成績は日本最大規模のピアノコンクールでの5位入賞。

プロになる覚悟を持てなかった彼はプロにはならず大きな楽器店の店員として働いていたが、アマチュア音楽家として強い思いをもってコンクールに出場します。

おまえは怒りを持っているはずだ。疑問を持っているはずだ。つねづね、おかしいと思っていたはずだ。

「俺が俺が」と言わないおまえ、デリカシーがあって優しいおまえ、そんなおまえが心の奥底に押し殺していた怒りと疑問。それをこのコンクールで吐き出したいと思っているのではなかったか。

そうだ、と明石は答える。

俺はいつも不思議に思っていた──孤高の音楽家だけが正しいのか? 音楽のみに生きる者だけが尊敬に値するのか? と。

生活者の音楽は、音楽だけを生業とする者より劣るのだろうか、と。

とはいえ仕事をしながら練習してきた明石とずっと訓練を重ねてきた音大生とでは、環境や練習量に圧倒的な違いがあります。
果たして明石は若い才能たちの間でどのような演奏をするのでしょうか?

演奏曲目はこちら。

第一次予選

  • バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第一巻第二番ハ長調」
  • ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第三番ハ長調OP. 2-3」第一楽章
  • ショパン「バラード第二番ヘ長調OP. 38」

第二次予選

  • 菱沼忠明「春と修羅」
  • ショパン「エチュードOP. 10-5黒鍵」
  • リスト「パガニーニの大練習曲S. 141第六曲 主題と変奏」
  • シューマン「アラベスクハ長調OP. 18」
  • ストラヴィンスキー「ペトルーショカからの三楽章」

第三次予選

  • フォーレ「ヴァルス・カプリス第一番イ長調OP. 30」
  • ラヴェル「水の戯れ」
  • リスト「バラード第二番ロ短調S. 171」
  • シューマン「クライスレリアーナ」

本戦

  • ショパン「ピアノ協奏曲第一番」

 

登場人物④ マサル・カルロス・レヴィ・アナートル

全米随一の音楽大学”ジュリアート”で最も高い人気と実力を兼ね備えたピアニスト。
「ジュリアートの王子様」という異名も持つ優勝候補で、彼が演奏した後は端正な容姿と高い演奏力で多くの観客が魅了されます。

ピアニストでありながらトロンボーンやギター、ドラムの演奏も出来て、その上プロ顔負けの実力を持つという苦労知らずの天才タイプ。

彼がピアノを始めたのは日本の学校に通っていた時に「あーちゃん」という女の子に出会ったことがきっかけでした。

マーくん、迎えに来たよ。
少女は一つか二つ年上だった。キラキラした大きな目に長いまっすぐな黒髪。

うーん、うん。
マサルは、わざといつも玄関でぐすぐずして気が進まないふりをするのだった。

すると、少女はサッとマサルの手を取って、先に立って歩きだす。マサルは彼女がそうしてくれるのを待っているのである。そのすべすべした手の感触にうっとりしながら、二人はピアノのレッスンに行く。

マサルはフランスに戻ってからもピアノを続け、2年もすると神童としてその名を知られることとなりました。
優勝候補としても注目されるマサルは果たしてどんな演奏をするのでしょうか?

演奏曲目はこちら。

第一次予選

  • バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第一巻第六番二短調」
  • モーツァルト「ピアノ・ソナタ第十三番変ロ長調K. 333」第一楽章
  • リスト「メフィスト・ワルツ第一番 村の居酒屋の踊り」

第二次予選

  • 菱沼忠明「春と修羅」
  • ラフマニノフ「絵画的練習曲音の絵OP. 39-6 アレグロ」
  • ドビュッシー「十二の練習曲 第五曲 オクターブのための」
  • ブラームス「パガニーニの主題による変奏曲OP. 35」

第三次予選

  • バルトーク「ピアノ・ソナタSZ. 80」
  • シベリウス「五つのロマンティックな小品」
  • リスト「ピアノ・ソナタ ロ短調S.  178」
  • ショパン「ワルツ第十四番ホ短調」

本戦

  • プロフィコフ「ピアノ協奏曲 第三番」

 

「蜜蜂と遠雷」の感想

音と呼吸が聴こえる抜群の表現力

あまり安易なことを言いたくはないのですが、「蜜蜂と遠雷」は音楽が聴こえる小説です。
ぼくは小説に出て来る曲がどんな曲かまったく知りません。
それでも「蜜蜂と遠雷」を読んでいるとものすごい音楽を聴いているような感覚にさせられます。

さらに文章で音を表現し聴覚を刺激してくるだけでなく、演奏者の息遣いやピアノを弾いている姿もはっきりイメージさせられます。
ピアノを弾く前には以下の動画のように溜めの動作が入るのですが、こういったピアノ演奏の動作が映像として浮かび上がってくるんです。
曲を知らなくてもなんだかものすごいものを見ている・聴いているような感覚を味わわされます。

さらに見事なのはコンクールの空気感までもリアルに表現していること。

他の出場者の演奏を聴いているときの気持ち、すごい演奏に観客が湧く様子、結果発表の時の緊張感・・・
こういったものがはっきり表現されているのですから恩田陸さんがしっかりと取材を重ねてきたことが良くわかります。

4人全員が主人公のように魅力的

映画では栄伝亜夜が主人公となっていますが小説では特に誰が主人公という描かれ方はされていません。
むしろ全員が主人公のようです。

4人ともがそれぞれ形は違うもののピアノと音楽に対する強い思いを持っていて、ただまっすぐひたむきにコンクールの望んでいきます。
ピアノコンクールという音楽をテーマにしたものでありながらスポーツを見ているかのような情熱が伝わってきます。

4人以外にも登場人物はいますが誰一人として嫌なやつがいません。
こういう話だったら1人くらいは嫌なやつがいたり、特定の誰かを有利にするといった陰謀が働いてもおかしくありません。
しかし「蜜蜂と遠雷」にはそんなものがまったくなく、4人のピアニストがひたむきに音楽に向き合っていく様子を描き続けています。

音楽に詳しくなくても面白い

ぼくは吹奏楽をやっているのでコンクールの雰囲気はなんとなく分かります。
ですが物語で出て来るピアノ曲はまったくといっていいほど知りません。

でも音楽に詳しいかどうかなんてこの小説には関係ないのです。
囲碁のルールが分からなくても「ヒカルの語」は面白いし、将棋に興味がなくても羽生善治や藤井聡太のことは好きになれますよね?
それと同じことが「蜜蜂と遠雷」でもいえます。

こんなことができるのは恩田陸の抜群の表現力と構成力の賜物でしょう。
ここまでされたらそりゃ本屋大賞と直木賞をW受賞しますって。

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