こんにちは、読書好きブロガーのリュウです。
2013年の本屋大賞受賞作である百田尚樹さんの「海賊とよばれた男」を読みました。
主人公の国岡鐵造(くにおかてつぞう)は出光興産の創業者の出光佐三(いでみつさぞう)をモデルにしていて、他の登場人物も実在した人物です。
日章丸事件など、戦後の日本で世界を相手に行った大偉業が描かれています。
フィクションとしても出来すぎなくらいなんですが、実話をもとにしているので「こんな人が本当にいたのか…」と信じられない思いです。
彼がやっていることはすべて人として当たり前だけど、ほとんどの人が実行できないこと。
この本は人生の本質で溢れています。
「大家族主義」と「人間尊重」
物語は日本がアメリカとの戦争に負けて敗戦国となった直後からスタートします。
主人公国岡鐵造(くにおかてつぞう)の経営する石油会社、国岡商店は海外を中心に経営していました。
しかし戦争に敗れたことで海外資本を失い、国岡商店は全てを失ってしまいます。
経営陣も倒産を覚悟する中、鐵造は本社の会議室で社員たちの前でこう言い放ちます。
「愚痴を辞めよ。(中略)
全てを失おうとも、日本人がいる限り、この国は再び立ち上がる日が来る。
(中略)ただちに建設にかかれ!」
「しかし」と、静かに言った。
「その道は、死に勝る苦しみと、覚悟せよ」
経営を続けるといっても資本のすべてを失っているので仕事もなく、いつ倒産してもおかしくない状態です。
それにも関わらず鐵造は1000人以上いる店員のひとりもクビにしようとはしませんでした。
鐵造は「大家族主義」「人間尊重」という信念をもっていて店員のことを家族のように考えていました。
家計が厳しいから家族の縁を切ることがないのと同じで、いくら経営が厳しいからといって家族である店員をクビにすることは鐵造の信念に反するからです。
さらに国岡商店には定年も出勤簿(タイムカード)なく、労働組合もありませんでした。
これがあるのは会社が社員を信頼していないからであり、信頼関係ができていればそんなものは必要ないというのが鐵造の考えでした。
そしてこれはモデルになった出光興産でも実際に行われていたことです。
国岡商店の店員たちはそこまで考えている鐵造のことを深く信頼していて、戦後の過酷な状況の中でも店主のため、会社のためにと働いていました。
他の会社が国岡商店の店員の仕事ぶりに恐れをいだいていたほどです。
実際ストライキがおきることもありませんでした。
ここまで信頼され大切に考えてくれたら恩を返そうという気持ちになって、嫌々ではなく主体的に動くようになりますよね。
こんな会社で働きたいもんだ。
自分の利益より日本と消費者のことを考える
石油を取り扱えず仕事が何もないため、石油にこだわらず漁業などなんでも仕事をもらえるなら引き受けました。
海軍から依頼されたラジオ修理を行ったり、日本への石油輸入を再開する条件としてGHQが出したタンク底の油をすべてかき集めるという仕事も行いました。
タンク底の仕事は海軍でも根をあげるほど過酷なため誰もやりたがりませんでしたし、途中からは物価の上昇によってやればやるほど赤字になる状況でした。
「確かに、タンクの廃油を集める仕事は、利益を追求して始めたものだ。
しかしそれだけではない。
この仕事を、日本人がやり通す事で、GHQに日本人の意地を見せることになる。
この廃油を全て集めれば、GHQは自らの発言の手前、日本に石油を配給しなければならなくなる。」
鐵造は続けた。
「この事業は、国岡商店だけのものではない。
日本の、石油産業の未来がかかっている。
ここで撤退すれば、GHQに日本人は腰抜けと笑われるし、国岡商店も馬鹿にされる。
そんなことは絶対にさせない」
赤字になるだけだと分かっても国岡商店は日本のためを思って利益をかえりみずタンク底の仕事を行いました。
このときの国岡商店の仕事ぶりはGHQの目にも留まります。
鐵造はGHQから「侍」として信頼され、GHQの中を自由に動けるようになります。
また、この後何度も資金面で苦しんで銀行に融資をお願いしに行くのですが、タンク底での仕事ぶりを見ていた銀行から「こういう会社に銀行員は融資をするべきだ」と思わせて、石油の小売業者に融資するには破格すぎる金額の融資を受けられたこともありました。
ふんどしひとつで油と泥まみれになりながら、タンク底で奮闘する若者たちの姿に、大江は強い衝撃を受けた。
おそらく、食べるものもろくにないのだろう、全員が痩せこけていた。
それなのに、彼らには悲壮感はなく、それどころか笑顔さえ浮かんでいた。
(中略)
銀行は、こういう男達がいる会社こそ援助しなくてならないのではないか。
だから今日、国岡が融資の相談に来たと知ったとき、額がどれだけになろうとも、融資をしようとその場で決めたのだ。
もし国岡商店が自分たちの利益だけを考えてタンク底の仕事から撤退していたらどうなっていたでしょう?
国岡商店は資金を確保できず倒産に追い込まれていました。
そうならなかったのは国岡商店が赤字になるのに日本のことを考えてタンク底の仕事をやりぬいたからです。
自利利他の行動をすると大きな価値になって返ってくる
よく「自分のことより他人の幸せを考えて行動すれば、いつかは自分の利益になる」と言われます。
これを自利利他(じりりた)といい、京セラ(現KDDI)の創業者である稲盛和夫さんは経営理念としていました。
この本の中でもそのことが書かれています。
とはいっても人はどうしても自分の利益を考えてしまいがちです。
利他の行動をしていても全然自分に返ってこないと「『いつか』っていつだよ!けっ!」と不満になって、こんなのはきれいごとだと思うようになります。
実際に国岡商店は日本や消費者の利益を考えて仕事をしたためにいくつもの借金を生むことになり、経営は火の車だったことがほとんどです。
ですが最終的に石油業界二位の会社に成長し、莫大な利益を上げました。
利他の行動が自分に何倍にもなって返ってきた証です。
これがフィクションだったらなんとも思いません。
小説の中ならどんな神みたいな人物も理想が現実になった展開でも作れるからです。
しかしこれは実話です。
他人の幸せを考える行動は短期的にみると損になることもありますが、長期的にみると必ず大きな価値になって返ってきます。
正しい行動をしていれば苦しむことはあっても最終的にうまくいく。
世の中はこんな仕組みで出来ているんです。
まとめ
こういう仕事系の小説は「半沢直樹」など池井戸潤の作品しか読んでこなかったですが、戦後の日本を舞台にした骨太の物語で楽しめました。
本の中で鐵造が自衛隊の訓練所で零戦を見るシーンがあります。
自衛隊、零戦、百田尚樹といえば・・・?
そんなつながりも本作にはあります。
まあちょこっとだけどね。
戦後の日本でとんでもないことをやってのけた日本人の生涯を描いた大作。
上下巻を読むのは大変と思いますが、読み始めればあっという間です。
読んでいない方はぜひ一読ください!