スピッツの新曲「大好物」が11月3日に配信リリースされました。
映画「きのう何食べた?」の主題歌となっており、料理シーンが多い作品にぴったりの楽曲な楽曲です。
ぼくは配信当日に早速聞きましたが、かなり高度なテクニックを盛り込んだスピッツらしい楽曲だと感じました。
特に歌詞に関していうと、他のバンドにはおよそ真似できないであろうレベルに到達しています。
この記事では、ファン歴15年のぼくが「大好物」の歌詞の秘密を解説します。
※この記事は2021年11月に別サイトで執筆したものを本ブログに再アップしたものです。
曲全体から「食事」が連想される理由
「大好物」の歌詞の中には、食事とか食べるといった言葉は一切出てきません。それにも関わらず、曲を聞いていると食事の場面が連想されます。
それは一体なぜなんだろう?と歌詞を見ていると、あることに気づきました。
「大好物」には食事を連想させる言葉が散りばめられており、それによって食事の場面がイメージできていたのです。
具体的には、以下のもの。
- つまようじ
- 笑顔の甘い味
- 生からこんがりとグラデーション
- 日によって変わる味
こう考えると、曲の最初の歌詞が「つまようじ」なのも、かなり大きな意味があります。
つまようじを使うのって、食後しかないですよね。そのため、誰もが無意識に食事を思い浮かべるはず。
そこに立て続けて「笑顔の甘い味」という歌詞を出すことで、聞き手の頭には食事の場面が浮かび続けます。
それによって「君の大好きなものなら 僕も多分明日には好き」というサビの歌詞も「大好きなもの=好きな食べ物=大好物」と連想されるようになっているのです。
解釈と情景が無限に広がるスピッツの歌詞の力
スピッツというと、歌声やメロディに魅力を感じる人が多いかと思います。
それは間違いではないのですが、ぼくはスピッツの真髄は歌詞にあると考えています。
上記で解説した食事を連想させる仕掛けもそうですが、スピッツは短いフレーズで無限の解釈をさせるのが鬼のようにうまいです。
「大好物」では、スピッツは以下のようなことをしています。
「日によって変わる味」に未来があったのではなく「日によって変わる味にも」未来があったという歌詞。
つまり未来があった対象はひとつではなく「それってなんなの?」って解釈が無限に広がる。
たった平仮名ひとつで歌詞の奥行きを広げるスピッツの凄まじさよ…#スピッツ #大好物
— 倉嘉リュウ💻ノマド✖️ヘルスケア (@ryu4690) November 3, 2021
これは「日によって変わる味にも未来があった」という歌詞に言及したものです。
仮に「日によって変わる味に未来があった」でも意味は通じますし、どんな味なのかといった解釈は広がります。
しかし「日によって変わる味にも未来があった」という歌詞にすることで、未来があった対象が複数になります。
それにより「他にどんなものに未来があった?」という疑問が生まれ、解釈が一層広がるのです。
しかもそれをひらがな1文字加えるだけでやっているという…
さらにスピッツは、短いフレーズで複数の情景描写・心理描写を表現します。
今回の曲だと「笑顔の甘い味をはじめて知った」という歌詞。
笑顔を向けられている様子とそれまでの会話、笑顔に対して感じている思いなど、いくらでも想像できませんか?
スピッツの曲を聞いていると、特に歌詞に関してはさまざまな発見してしまい、どんどん深みにハマっていきます。
「大好物」もそんな作詞術が、ふんだんに盛り込まれていました。
「味」は体験と記憶の複合的な幸福
この曲には「笑顔の甘い味をはじめて知った」みたいに味って言葉が出てくるけど、これは後味のことで感情の比喩表現かなと思いました。
口の中に残り続ける味みたいに、幸福な感情が残り続けているという。
— 倉嘉リュウ💻ノマド✖️ヘルスケア (@ryu4690) November 3, 2021
味というと食事を思い浮かべますが、これは幸福な感情のことを言っているんじゃないかと思いました。
例えば自分の好きな人と一緒に過ごしたり食事をしたら、とても楽しい時間を過ごせますよね。
ただ、幸せは「一緒に過ごした体験」だけでなく、その記憶を思い返している時間にも感じられます。
「楽しかったな」「美味しかったな」と余韻に浸っている時間は、いわば「幸福の後味」を楽しんでいる瞬間です。
つまり大好物の歌詞に出てくる「味」とは、体験と記憶を合わせた複合的な幸福を噛み締めているのだと感じました。
【スピッツの新曲『大好物』】
大好物なら1人で食べてももちろん美味しいけど、好きな人と一緒ならもっと美味しい。それが「笑顔の甘い味」であり「日によって変わる味」でもある。
「誰かとご飯を食べられるって幸せなことなんだよ」って教えてくれる曲でした。#スピッツ #大好物
— 倉嘉リュウ💻ノマド✖️ヘルスケア (@ryu4690) November 3, 2021
「食べることは愛であり生きること」
マサムネさんは以前「食べることは愛することであり愛されることであり、つまりは生きること」っていう発言をしている。
『大好物』にはマサムネさんのそういう考えが強く反映されているように感じる。#スピッツ #大好物
— 倉嘉リュウ💻ノマド✖️ヘルスケア (@ryu4690) November 3, 2021
これはボーカルの草野さんが『食堂かたつむり』という小説の帯コメントに書いていたものです。
食材にすることは動物・植物のどちらにせよ、命をいただく行為。さらにそれを調理し人に提供することには「美味しいものを食べさせたい」という気持ちが込められます。
また、人は食べないと生きていくことはできません。だから食事は、愛し愛されることであり生きることなんだと、ぼくは解釈しました。
「大好物」には食事を連想される言葉が散りばめられていますし、上記のマサムネさんの考えはかなり濃く反映されているはずです。
曲全体で幸せと悲しみが共存している
スピッツの新曲『大好物』
ポップなメロディながら、曲全体に不穏な空気が漂っている。ぼくには「いつかなくなる幸せ」みたいなものを歌っているように聞こえる。#スピッツ #大好物 pic.twitter.com/JRXgPr47au
— 倉嘉リュウ💻ノマド✖️ヘルスケア (@ryu4690) November 3, 2021
「大好物」はポップなメロディで、歌詞も好きな人と過ごす幸せな時間を歌っている曲のように思えます。
しかしそれと同時に、曲全体を通して悲しみも感じられます。
人は誰だっていつか死んでしまいます。そうなれば当然、一緒に過ごす時間も終わります。
つまり一緒に過ごす幸せだけでなく、必ず訪れる別れにより失ってしまう悲しみも感じているのです。
また、「大好物」の歌詞には、以下のようなものがあります。
うつろなようでほらまだ 幸せのタネは芽生えてる
もうしばらく 手を離さないで
「もうしばらく」ということは、いつか離してしまうことを前提とした言葉ではないでしょうか。
この歌詞からも、いつか失ってしまう悲しみを感じられます。
ただ、いつか失うのは悪いこととは言いきれません。いつかなくなる・続かないからこそ、幸せは感じられるものだからです。
今ある幸せを感じられるのは永遠ではない。だからこそ、かけがえのない瞬間を大切にしよう。
「大好物」からは、そんなメッセージがあるように感じました。
この曲は、ほとんどの人が幸せにフォーカスして聞くのではないかと思います。
しかしその裏にある悲しみにもフォーカスすると、ポップな曲調がとてつもなく切ないものに聞こえてきます。
別の解釈も広がるので、悲しみに着目した聞き方をしてみることもおすすめです。
まとめ
今回は、スピッツの新曲「大好物」の歌詞について解説しました。
スピッツの新曲を聞くたびに、衰えない実力と才能に感服してしまいます。
おそらく来年には、新しいアルバムが出るはず。次はどんな凄まじいことをやってくるのか、ファンとして楽しみにしています!