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富山の吹奏楽団に所属するTuba吹き。音楽を演奏するのも聴くのも好きな「no music no life」な人間。スピッツファン歴は12年。小心者でビビリながらも興味のあることは何でもやってみるタイプ。

池井戸潤『下町ロケット ゴースト』のあらすじと感想。地味な話がどうしてこんなに面白いのか?

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こんにちは、本好きブロガーのリュウです。

今回は3年ぶりに続編が発表された『下町ロケット ゴースト』を紹介します。

新しく放送が始まったドラマの原作となる作品です。

 

 

2015年に放映されたドラマ「下町ロケット」(TBS日曜劇場)の大ヒットも記憶に新しい、「池井戸潤、絶対の代表作」に待望のシリーズ最新刊が登場!

倒産の危機や幾多の困難を、社長の佃航平や社員たちの、熱き思いと諦めない姿勢で切り抜けてきた大田区の町工場「佃製作所」。
しかし、またしても佃製作所は予期せぬトラブルにより窮地に陥っていく。


いまや佃製作所のシンボルとなったロケットエンジン用バルブシステムの納入先である帝国重工の業績悪化、主要取引先からの非情な通告、そして、番頭・殿村に訪れた危機――。
そんな絶体絶命のピンチを切り抜けるため、佃が下した意外な決断とは・・・・・・。

大きな挫折を味わってもなお、前に進もうとする者たちの不屈の闘志とプライドが胸を打つ! 大人気シリーズ第三弾!!

下町ロケットシリーズ「宇宙から大地」編、開幕!!

(Amazonより引用)

 

池井戸潤の作品はTBSでやっていたテレビドラマでしか観ていなかったのですが、今回原作を読んだ上でドラマを観ようと思い、原作小説を読んでみました。

 

はっきりいってドラマ版は原作のいい要素を一部削り落としてドラマ的アレンジを加えているため、小説と比べると内容が薄く、安っぽくなっている印象を受けました。

他の作品はよく分かりませんが『下町ロケット ゴースト』は小説のほうが断然面白いです。

 

この記事では『下町ロケット ゴースト』のあらすじを紹介します。

 

 

『下町ロケット ゴースト』のあらすじ

 

佃製作所の新たな試練と挑戦

前作までで大企業・帝国重工が打ち上げているロケットの部品であるバルブシステムを提供するようになり、中小企業ながらも確かな地位を得たかに思えた佃製作所。

しかし佃製作所にまた新たな試練がやってきます。

 

佃製作所の大口取引先であるヤマタ二から呼び出された社長の佃航平は、現在製作中で採用予定であった新型エンジンの取引を一旦白紙に戻してもらいたいということを告げられます。

 

それはヤマタニの新社長・若山が農機具のエンジンなど動けばいいという考えであること、佃製作所よりもはるかに低価格でエンジンを提供する企業が現れたことが原因でした。

 

それにしても、これほどまでの低価格とは ー

佃は同社のコストに驚き、敗北感に唇を噛んだ。技術がコストに負けたのだ。

しかも、これは佃製作所にとって痛恨の”敗北”であった。

 

それだけではなく、ロケットのバルブシステムを提供している帝国重工も新社長の就任が決まり、それによって現社長が行っていたロケット事業の”スターダスト計画”そのものが打ち切られる可能性が高くなりました。

 

技術力があるといっても中小企業。

大口取引先がなくなるとなれば、佃製作所が赤字になることは避けられません。

 

 

そんな中、佃が新しい挑戦として目をつけたのはトランスミッションを作ることでした。

トランスミッションとは簡単にいうと変速機のことで、誰でも知っているものだと自転車の変速機がトランスミッションです。

 

創建ともいうべき一言を、佃は口にした。

 

「どれだけ高性能なエンジンを開発したとしても、乗り味や作業精度を決めるのはエンジンじゃない。トランスミッションなんだ。

 

(中略)

高性能のエンジンと高性能トランスミッション。

佃製作所がその両方を作れるメーカーになれないか、真剣に検討してみる価値はあると思う」

 

ベンチャー企業”ギアゴースト”

 

トランスミッションを作るノウハウは佃製作所にはないため、まずはトランスミッション用のバルブを作ることから始めることにしました。

 

そこで自前でトランスミッションを作っているヤマタニにバルブだけでも作らせてもらえないか頼んだところ、トランスミッションそのものの外注化も考えているとのことでした。

 

その外注先は”ギアゴースト”という名前のベンチャー企業。

すべての部品製造と組み立てを委託している企画設計会社で、創業5年でありながら年商100億を超えています。

 

社長の伊丹大と副社長の島津裕は二人とも帝国重工の出身で、特に島津は天才エンジニアと呼ばれていたほどの実力を持っています。

 

 ー 島津裕

ヒロシではなく、ユウと読む。(中略)

男だとばかり、勝手に思い込んでいた。だが ー。

天才エンジニアは、女だった。

しかも彼女は、どこにでもいそうな、ごく普通の女性であった。

 

 

ギアゴーストはトランスミッション用のバルブをコンペで決めていて、現在は大手メーカーの大森バルブのものを使用しています。

トランスミッション開発に乗り出した佃製作所は、いきなり大手バルブメーカーとの戦うこととなりました。

 

バルブの”オリジナリティ”

佃はバルブシステムの製造を中堅エンジニアの軽部真樹男(かるべまきお)と、前作で人工心臓弁・ガウディを作った立花洋介(たちばなようすけ)と加納アキ(かのうあき)の3人に任せました。

 

軽部は前職でトランスミッションの開発を経験しており技術力は十分ですが、昔ながらの”見て覚えろ”というタイプの人間で、何かと物議を醸していました。

立花とアキの2人ともチームとして十分なコミュニケーションがとれているとはいえず、制作は難航していました。

 

「それともうひとつ ー 」

軽部は言った。

「もっとオリジナリティ出せや。このバルブにはお前ららしさがどこにもねえ」

軽部の言葉にはふたりとも呆然と立ち尽くすしかなかった。

こてんぱんな言われようだ。

 

突き放すような軽部の言葉は実は確信をつくもので、この言葉をきっかけに二人は自分たちが作っていたバルブの方向性が間違っていたことに気づきます。

そして完成したバルブは無事ギアゴーストのコンペを勝ち抜き、採用されることとなりました。

 

これで順調に行くかと思いきや、コンペで敗れた大森バルブ社内では何やら不穏な動きが。

コンペで佃製作所に敗れた直後の部長室でのやり取りです。

 

「部長、ギアゴーストについてその ー 何かあるんでしょうか」

漠然とした問いかけである。

”何か”が何なのか、自分でも分からない。

「あの会社。早晩、潰れる」

蒔田は瞬きすら忘れ、ただ辰野を見つめることしかできなかった。

(中略)

「いったい、何が起きてるっていうんだ......」

結局、何の情報も掴めないまま部長室を出た蒔田は、釈然とせぬままその場を立ち去るしかなかった。

 

物語はこのあと、急展開を迎えます。

 

 『下町ロケット ゴースト』の感想

 

読者を飽きさせないストーリー展開

 『下町ロケット ゴースト』では様々な問題が次々起こります。

2つか3つほどの大きな問題が起きてそれを解決したら次の問題が・・・っていうようなものではなく、いろんな問題を次々に起こしてそれを小出しに解決していくという流れで物語が進行していきます。

 

次々起こる問題にともなって物語もどんどん動いていくので展開がとにかく早い。

しかもあれこれ詰め込んだという感じはなく、1番心地よいバランスをおさえています。

 

ぼくは小説は特に物語のスピード感が大切だと思っています。

最近読んだとある小説は、前読み進めていっても物語の舞台設定がいっこうに見えてこないスローな展開で、あまりにも物語が進まないのが嫌になって4分の1ほどで読むのを辞めてしまいました。

 

漫画や映画とは違って小説は文字だけですから、読者を飽きさせない工夫がより必要になります。

 

その点『下町ロケット ゴースト』は物語がどんどん進んでいくので、全然飽きることなく最後まで読み進められます。

 

それどころか、ページをめくる手が止まりません。

ぼくはわりとチマチマと小説を読むほうなんですが、こんなに夢中になって小説を読んだのは久しぶりです。

  

実際にありえるんじゃないか?というリアリティ

ドラマを観ていると敵に当たる大企業の人物がかなり嫌なやつとして描かれています。

すっごい嫌味ったらしい言い方してきて、ほんと憎たらしいですよね!笑

 

原作でも当然嫌なやつとして描かれてはいるんですが、あそこまで嫌なやつになっているのはドラマのアレンジです。

ドラマの表現方法を否定するわけではないですが「こんなやついるわけないじゃん」という意識が働くので、あの嫌味なしゃべりかたを観ていると現実に引き戻されるような感覚があります。

 

しかし小説はというと、文体が落ち着いていることもあってクールな感じになっていて、本当にこういうやつがいてもおかしくないと思うような姿で描かれています。

 

 『下町ロケット ゴースト』はフィクションなのですが、ぼくにはノンフィクションを読んでいるように感じられました。

 

 

『下町ロケット ゴースト』は壮大な前フリ? 

実はこの作品は1作では完結せず、次作である『下町ロケット ヤタガラス』に続いていきます。

つまり『ゴースト』は新シリーズの前編にあたる作品なんです。

 

 

 『ゴースト』ではバルブシステムのコンペのあとの急展開からは、佃製作所ではなくギアゴーストの伊丹と島津の二人を中心とした物語となっていきます。

今回は佃製作所はほとんど追い詰められず、ギアゴーストのほうが窮地に追いやられていきます。

 

主人公である佃がやや脇役みたいになっていましたし、『ゴースト』のストーリー展開は『下町ロケット』の1作目の展開とよく似ているのでモヤモヤ感があって気になっていました。

 

しかしギアゴーストの二人をメインに描いていっていたのは『ヤタガラス』へと続くラストの展開を読んで納得がいきました。

二人のことをあれだけ細かく書いているからこそ、ラストの展開には「どうして・・・?」と思わずにはいられません。

 

何よりもう、続きが気になってしょうがない。

『ゴースト』を最後まで読んだら間違いなく『ヤタガラス』にも手を伸ばしてしまうでしょう。

まったく・・・次への引き方が憎らしいほどです。

 

 まだ『ゴースト』しか読み終えていないので予測でしかないですが、『ヤタガラス』では物語がさらなる加速度を見せることでしょう。

ちょっと消化不良ぎみですが、シリーズの前編としては申し分ない出来です。