
こんにちは、リュウです。
今年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」を観てきました。
日本人監督の映画で21年ぶりの受賞であり世界からも評価された作品なので、これは観ておかなければと映画館に足を運びました。
ぼくの印象としては「八日目の蝉」の家族版って感じです。
あれは誘拐した娘と母親の愛情を描いた作品でしたが、観終わった時に同じような重さを感じさせられました。
なお是枝監督の作品を観るのはこれが始めて。
映画のあらすじと実際に観ての感想を書いていきます!
「万引き家族」のあらすじ
東京の下町に暮らす、日雇い仕事の父・柴田治とクリーニング店で働く治の妻・信代、息子・祥太、風俗店で働く信代の妹・亜紀、そして家主である祖母・初枝の5人家族。
家族の収入源は初枝の年金と、治と祥太が親子で手がける「万引き」。
5人は社会の底辺で暮らしながらも笑顔が絶えなかった。
冬のある日、近所の団地の廊下にひとりの幼い女の子が震えているのを見つけ、見かねた治が連れて帰る。
体中に傷跡のある彼女「ゆり」の境遇を慮り、「ゆり」は柴田家の6人目の家族となった。
しかし、柴田家にある事件が起こり、家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれの秘密と願いが次々に明らかになっていく…
映画は治と翔太がスーパーで万引きをしている場面から始まります。
お互いに手の動きで考えを伝えたり、治が店員の前に立って死角になっている間に商品をリュックに入れるといった連携も見せていて、もう何度も万引きをしていることが伺えます。
まあ実際にこんなやり方で万引きしていたら絶対気づかれると思いますが 笑
二人がいつものように万引きを終えて家に帰っている途中、団地の廊下に女の子が投げ出されていて、見かねた治が家につれて帰ります。
女の子の名前を聞くと”ゆり”と答えました。
家には治と翔太以外に祖母の初枝、妻の信代、信代の妹の亜紀が一緒に暮らしていました。
誘拐と思われてもおかしくないような形でゆりを連れてきたことに文句をいいつつも、信代たちもゆりのめんどうを見始めます。
しかし捜索願いが出されて事件になっても困るので、治と信代は寝ているゆりを担いで連れてきた団地にこっそり返そうとします。
そこで二人は窓ごしにDVと思われる現場に遭遇し、「産みたくて産んだわけじゃない」という母親の声を聞いてしまいます。
ゆりの体にはいたるところに傷がついていて本人は「転んだ」と答えていましたが、この現場を見ればゆりが暴力を受けていたことは明白です。
このことで二人はゆりをもとの家族のもとに帰すことができなくなり、ゆりは6人目の家族として一緒に暮らすようになります。
万引き家族というタイトルから家族みんなで万引きしているように思えますが万引きをしているのは治と翔太の二人だけ。
祖母の初枝は年金+生活保護需給の単身暮らしを装ってお金を不正に受け取っていました。
そして家族もこれを月に一度の定収入としていて、足りない分を万引きなどで補って生活していました。
といっても万引きと不正受給だけで暮らしているわけではなく、妻の信代はクリーニング店、治自身も日雇いの工事現場で働き、亜紀はJK見学店で仕事をしています。
万引き+年金不正受給+誘拐という犯罪によってつながっている家族ですが、そこには本物の家族のような絆があり口が悪いながらも笑顔が絶えませんでした。
そんなある日、ニュースで5歳の女の子が行方不明になっているのに両親が捜索願いを出していなかったことが報道されました。
これはもちろんゆりのことで、ゆりの顔まではっきりとテレビで流れてしまいました。
治や信代に「本当の家族のところに帰るか一緒に暮らしていくか」を聞かれたゆりは自らの意思で柴田家で暮らしていくことを選びました。
ゆりが連れてこられたときは文句を言っていた信代や亜紀も、ゆりを家族の一員として認めてかわいがるようになっていました。
ゆりも最初は質問に首を振って答えるだけでしたが徐々に笑うことが増えていき、家族としての絆を深めていきます。
しかしある事件をきっかけに家族は離れ離れになってしまい、ここまでまったく触れられてこなかった柴田家の全貌が明らかになります。
柴田家の秘密、そしてそれぞれが抱えていた思いとは?
「万引き家族」の感想
出演者のアドリブがすごい
観る前からアドリブがすごいという話は聞いていたんですがどこの場面かは知らなくて、てっきり家族の会話のところとかかなと思っていました。
そこもアドリブらしき演技はいくつもあったし実際アドリブがあったのかもしれませんが、ほんとうにすごいのはそこではありません。
最終的に治と信代は逮捕されて警察に取調べを受けるんですが、取調べで質問される側の出演者は何を聞かれるのかをまったく知らなかったというのです!
取調べではそれぞれが家族のことをどう思っていたかを聞かれていてかなり重要な場面ですが、ここを台本どおりにせずアドリブにするというのはすごいとしかいいようがありません。
特に印象的だったのは信代を演じる安藤サクラの演技。
警察官に「あなたはなんて呼ばれてきたの?」と聞かれた場面です。
実はスタジオでの撮影が終わるくらいの時、監督に「私、家族のなかで自分のことを『お母さん』とは呼んでないんです。そういう機会があっても、ずっとそうは言えないで撮影をしてきました」という話をしたんですが、それがきっかけで、「じゃあ、あなたはなんて呼ばれてきたの?」という質問をあの時、池脇さんにさせたのだと思います。「うわっ、意地悪だな」と思いましたね(笑)。信代さんには、自分のことをお母さんとは言えない葛藤があった。取り調べている相手に対して絶対に涙を見せたくなかったので見せまいと頑張ってはいたんですけど、ダメでしたね。
この場面では髪をかきあげ、何度も顔をこすって涙をこらえようとするも結局涙が流れ「なんだったんでしょうね…」と一言だけ答えています。
母親でいたかったけど母親になることができなかった、そんな信代の思いが感じられるシーンです。
いい演技・いいシーンでしたがこれもアドリブ。
今考えれば不自然な素振りだったし、アドリブだからこその演技だったんでしょうね。
家族の日常を切り取っている
この映画はフィクションというよりもドキュメンタリーじゃないかという印象を受けます。
映画の中で家族を中心とした登場人物のやり取りが何度も出てくるんですが、これが作られたものだとは思えないほど自然で、目の前で起こっていることなんじゃないかと錯覚させられます。
柴田家のやりとりなんて、全部アドリブなんじゃないかと思えてきます 笑
全体をとおしても登場人物が感情をあらわにしたり、ここで泣かせようとしているなという演出もなく、柴田家の日常がそのまま描かれています。
こんな演技が出来るんだから現場の雰囲気はかなりよかったんでしょうね。
そうじゃなければあんな風には絶対ならない。
家族とは何か?強く重いメッセージ
治と信代が逮捕されたことで、ゆりは本当の家族のところに戻っていきます。
世間的に見れば誘拐されていた女の子が家族のところに帰るというのは誰もがよかったねと思える結果です。
しかし家族のもとに戻ったゆりには柴田家にいたころのような笑顔はありませんでした。
母親にも疎ましく見られている場面もあり、どう見ても幸せそうではありません。
ゆりにとっては柴田家の生活のほうが楽しく、本当の家族となっていたのでしょう。
柴田家のしていたことは完全な犯罪なので捕まるのは当然のことなんですが、幸せそうに笑う家族の様子を見てきていたので「ああっ、つかまらないでくれよ・・・」と悲しい気持ちにさせられました。
警察の取調べの中で信代は「産んだらみんな母親になれるんですか?」と聞いている場面があります。
それにたいして警察官は「産まなきゃ母親になれないでしょ?」とまっとうな言葉を返していますが、柴田家の様子を見ているとそう素直に思えません。
現にゆりは本当の家族より柴田家にいるときのほうが幸せそうだったし、本人も柴田家で暮らすことを選んでいました。
それに産んだら母親になれるのなら、子どもに暴力を振るったり殺害したとしても母親だといえるのでしょうか?
血のつながりがあれば家族になれるわけじゃないし、映画のように犯罪で結びつく家族がいないともいえません。
何が家族で何が悪なのか?そのことを深く考えさせられます。
心理描写が少なく登場人物の気持ちが分かりにくい
物語の中では初枝が亡くなったりといろんなことが起こるのですが、心理描写が少なくてその時に登場人物が何を考えていたのかが分かりにくいです。
たとえば柴田家の秘密を知ったあと亜紀が誰も居ない空き家となった柴田家を訪れる場面があるのですが、”なんで家にきたのか?家の中を見て何を感じたのか?”ということが分からないまま終わっています。
あとから気持ちが分かることもあるのですが、はっきりこうだと表現されていなくて鑑賞者の想像にゆだねているようなところが多いのでややスッキリしません。
やっぱり共感できない
犯罪でつながっていたとはいえ柴田家には本当の家族のような絆があったし、最後にもう一度家族になってほしいという気持ちもわきました。
でも彼らがやっているのはれっきとした犯罪だし、翔太とゆりにも万引きをやらせているほどです。
犯罪をするということ自体共感できるものではないので、映画全体をとおして「でも犯罪なんだよな・・・」という意識が働いて共感できませんでした。
ただこの作品は共感するようなものじゃなさそうだし、ぼくが共感を重視しすぎているような気もします。
「万引き家族」まとめ
- 出演者の自然な演技がすごい
- 悪とは何か?家族とは何かを考えさせられるメッセージ性
- 犯罪だから共感はできない
カンヌで最高賞をとった作品ですが、正直万人受けする作品ではないと思います。
ただこの作品のメッセージはぜひ映画館で鑑賞してもらいたいものです。
感動作ではなく大きな疑問をぼくたちに投げかけてくる作品なので、観る価値は十分にあります。
ちなみに小説版もあるので気になるかたはこちらもどうぞ。







