小説

瞬間移動が最高にかっこいい。伊坂幸太郎「フーガはユーガ」のあらすじと感想

瞬間移動という設定をこんなに面白く出来るのは彼ぐらいのものでしょう。

2019年の本屋大賞にノミネートされている伊坂幸太郎の「フーガはユーガ」を読みました。

常盤優我は仙台市のファミレスで一人の男に語り出す。双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと、そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。

僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い。
(Amazonより引用)

ぼくが小説を読むようになったのは伊坂幸太郎がきっかけでした。

それまでに読んだことのあったどの小説とも違うタイプの物語で、一時期取り憑かれたように彼の小説を読み漁っていました。
いわばぼくに小説の面白さを教えてくれた神のような人であり、大好きな作家です。

そんな彼の小説で、なおかつ全国の書店員の投票で選ばれる本屋大賞にノミネートされている。
ぼくは大きな期待を寄せて読み始めました。

結論から言いますと、ぼくの想像していた以上に面白い小説でした。
この記事では「フーガはユーガ」のあらすじと感想を大きなネタバレなしで紹介していきます。

 

決まった日と時間にだけ瞬間移動する双子の兄弟の物語

主人公であり物語の語り部でもある常盤優我(ときわゆうが)と常盤風我(ときわふうが)は仙台市内に住む双子の兄弟。
彼らは幼いころから日常的にDVをしてくる父親と、それを見てみぬふりをする母親という複雑な家庭環境の中で生きていました。

そんな彼らが小学2年生のとき、二人の間に奇妙なことが起きます。

その日遊我はクラスで漢字の読み書きテストを受けていて、「十本」という字の読み方を「じゅっぽん」と書いた後、「何か違ったぞ」と首を傾げていました。
そして何気なく時計を見たとき、遊我にある異変が起こります。

正面の時計が目に入った。十時を過ぎ、十時十分を指すところだ、と思った瞬間、ぴりぴりと皮膚が震えた。
サランラップで体中が、鉛筆を持つ手も含めて全部、包まれるような感覚があって、「あれ?」と思った。(中略)

さっきまで漢字テストだったのに。黒板には数字があった。習ったばかりの九九の式が並んでいる。国語の時間から算数の時間へ急に移動した。

漢字テストを受けていたはずの遊我は、黒板の前で鉛筆を持って立っていました。
何が起こったのか分からず立ち尽くす遊我に先生がチョークを差し出してくれたのですが、ここでまたおかしなことに気づきます。
その先生は隣のクラスの担任である岡沢先生だったのです。

混乱する僕に、岡沢先生が大事なことを、それはまさに、その事象を説明する回答とも呼べる、一言を口にした。

「九九、そろそろ覚えていないとまずいぞ、風我」

先生は、僕を弟だと思っている。というよりも、ここは弟のクラスなのだ。

授業のあと2人で何が起こったのかと首を傾げ、お互いクラスを間違えたのかなと無理やり納得していました。

しかしこれは1度限りのことではなく、そのあとも皮膚がぴりぴりと震える感覚とともに隣のクラスに移動するという現象がおきます。
その後2人で状況を分析したところ、これは2時間おきに起こる瞬間移動なのだということが分かりました。

お互いに瞬間移動の力を手に入れたと喜んでいましたが、翌日になってからは瞬間移動がおこらなくなります。

やがて瞬間移動が起きたということも忘れて今まで通りの日常を過ごしていましたが、ある日突然再び瞬間移動が発生。そして翌日からはまだ何も起こらなくなりました。

こんなことを繰り返し2人が中学生になったころ、これは誕生日のときに2時間おきに起こる瞬間移動なのだと結論づけました。
なぜ2時間おきなのかということについてですが、遊我と風我は2時間遅れて生まれてきています。
つまり2時間ずれて生まれた双子の兄弟が2時間おきに瞬間移動をするということなのです。

このことが分かってから2人は以下のようなルールを決めました。

  • 誕生日は極力同じ服を着る
  • 瞬間移動が起きる時間になったら人目のつかないところに移動する(トイレの個室がベスト)
  • 誕生日は女性と抱き合わない

瞬間移動を防ぐ方法は分かりませんが、2時間おきなのでいつ起きるのかは予測できるので対処が可能です。
女性と抱き合ってるときに瞬間移動したら気まず過ぎますよね 笑

日常的な父親の暴力と誕生日の瞬間移動という特殊な状況の中で過ごしていた遊我と風我は、中学生のときに1人のランドセルを背負った少女に出会いました。
気まぐれで声をかけたこの少女とのやり取りが、その後の2人の人生の下地としてずっと残り続けることになります。

 

「フーガはユーガ」の感想

瞬間移動という設定だけで面白くしている

「フーガはユーガ」で特殊な設定って双子の兄弟が瞬間移動するってことだけなんですよね。
しかも自分たちの意志で出来るものではなく誕生日にだけ起きるものなので、能力というよりは現象でしかありません。
それに瞬間移動ってそんなに珍しい設定でもないですよね。

しかし「フーガはユーガ」は瞬間移動という設定の使い方が今までとはまったく違っています。
瞬間移動という設定だけでここまでかっこよく面白く描いている。そのことに驚かされました。

物語で重要なことが起きるときがちょうど2人の誕生日っていうのはやや都合が良すぎるような気もしますが、「次は瞬間移動がどんな使われ方をするんだろう?」とワクワクしっぱなしでした。

1番かっこよかったのは最後の瞬間移動ですが、その他のネタバレに繋がらない場面であったらぼくが好きなのは以下のシーン。

おそらく人生において、二度と口にしないだろう決め台詞を発した。
「変身」

ちょうど体がぴりぴりとした膜で覆われるのと同時だ。

これだけじゃ何がなんだか分からないと思いますが、笑えてかっこいいぼくの大好きな場面です。

これも伏線だったの?圧巻の伊坂ワールド

伊坂幸太郎の小説といえば巧妙に張り巡らされた伏線の巧みさでしょう。
ぼくは「ラッシュライフ」という小説での見事に伏線が回収された爽快感抜群のラストが忘れられません。

伊坂幸太郎の伏線の巧妙さは「フーガはユーガ」でも健在。
まったく関係ないと思っていたものから、頻繁に登場していて伏線だとは想像もしていなかったものまで「えっ、これも?」というものがいくつもありました。
伏線が一気に結びつくラストには読んでいて「すげえ!」と唸らされましたね。

そしてこの伏線の巧妙さにはなんだか感動すら覚えました。なんでしょう、驚きが感動になるって感じですかね?
まあ、読んで確かめてみてください 笑

クスッと笑える会話が少ない

伊坂幸太郎は間違いなく面白い小説を書いてくれる作家です。
彼の作品を読んだことのある人なら分かってくれるはず。

「フーガはユーガ」はぼくの想像よりもかなり面白い小説だったので満足しているのですが、ひとつだけ残念だったのがクスッと笑える会話が少なかったこと。

伊坂幸太郎の魅力は前述した巧妙な伏線とクスッと笑えるセンスのよすぎる会話にあります。
しかし今作は会話の面ではあまり楽しめなかったかな、というのが正直なところです。

  • デッキが出来た
  • 「頭韻を踏んでるんですね」「どこの党員?」

ぼく的に面白かったのはこれくらい。
しかもこれだってただのダジャレなのでセンスのよさは感じられません。
今までぼくが読んだ作品では会話だけでも楽しめるシーンが多かったのに・・・

伊坂幸太郎もおっさん化しちゃったかなぁ、と勝手に寂しくなってしまいました 笑

 

他の人たちの感想

 

 

「フーガはユーガ」は伊坂作品の中でもトップクラス

ぼくは「ゴールデンスランバー」までの初期作品を中心に伊坂幸太郎の小説を7割くらいは読破しています。
今までの伊坂作品の中でも「フーガはユーガ」はトップクラスに面白い作品だと感じました。
読後の余韻としては本屋大賞を受賞した「ゴールデンスランバー」に似ていましたね。

ずば抜けた作品ではないので本屋大賞を取るかは微妙ですが、面白い小説であることは間違いありません。
ぜひあなたも巧妙な伊坂ワールドを味わってみてください!