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富山の吹奏楽団に所属するTuba吹き。音楽を演奏するのも聴くのも好きな「no music no life」な人間。スピッツファン歴は12年。小心者でビビリながらも興味のあることは何でもやってみるタイプ。

本屋大賞「かがみの孤城」のあらすじと感想②。辻村深月のすべてがここにある

前回の記事では「かがみの孤城」のあらすじを紹介しました。

今回は読んでみての感想を書いていきます。

 

「かがみの孤城」の感想

読み手の心をえぐりとるかのような心理描写

この作品に限った話じゃないですが、辻村深月は登場人物の心理描写がズバ抜けてうまいです。

 

特にこころが不登校になるきっかけとなった事件の場面はもはやホラーかと思うほどの怖さがあって、読んでいて鬱な気分にさせられます。

 

 

もしここで鍵がかかっていなかったら、興奮した真田さんたちは平気でうちの中まで入ってくるだろうという気がした。

中にいるこころを見つけたら、こころをここから引きずり出して、そして  ー 殺してしまうだろう、という気が、大袈裟でなく、した。

あまりに怖くて、声も出なかった。

 

 冷静になって考えてみればいじめの描写はそこまで悲惨なものではありません。

 

それなのに読んでいて鬱にさせられるのはこころが感じた恐怖や感情がひしひしと伝わってきて、自分がされたことのように思えてくるからです。

 

物語の中に鬱にさせられる場面がいくつもあるので、読んでいていい気分はしません。

しかしこれもラストの感動のためにはひつよなものです。

 

ちょっと古い例になりますが、「半沢直樹」だって散々イライラさせられたのちに倍返しするからこそスカッとしたはず。

 

最後には鬱な気分もひっくるめて感動を作り出すので、そこまでがんばって読みましょう 笑

 

 

登場人物が友だちのように思える

突然城に集められてお互いのことを知らなかった7人ですが、城で過ごすうちに友情を育んでいって、最終的には城でみんなで一緒に過ごすことに喜びを感じるようになります。

 

 

三月が終わって城が閉まって、それぞれの世界に戻ってからみんなの世界がどうなるのか、続きを知ることはもうできない。

どれだけ心配しても、分からないまま。

胸が痛んだ。

みんな、どうか元気で、と願う。

幸せになって、と祈る

 

 

こころも期限の3月30日が近づくころには、みんなと会えなくなることをさみしがるようになります。

 

ぼくも読んでいてこの7人のことが大好きになってしまっていたので、物語の終わりが近づくにつれ「ああ、もうすぐこの7人と会えなくなるのか…」と読み終えるのが惜しい気持ちでいっぱいになりました。

 

辻村さんはこころを読者に1番近い存在にすることを意識していたそうです。

だからこころは自分の分身みたいな存在になったし、こころを通してみんなと会話をしているような感覚にさせられました。

小説の登場人物というより実際にいる友だちのように思えてきました。

 

そのくらいキャラが魅力的。

少なくとも3人は好きなキャラが出来て、別れを惜しむ気持ちがわいてきます。

 

 

ミステリー要素が驚きと感動を生む

ネタバレになるので詳しく書くことができませんが、ミステリー要素がとにかくお見事。

伏線が序盤からいくつも仕掛けられていて、読みながら「ああ、そういうことだったのか!」とうならされます。

 

終盤で一気に物語の真相が見えていくのですが、この場面は感動的でページをめくる手が止まらなくなりました。

そしてすべてが明らかになったときにやってくる温かい感動。

これを味わってしまったらもう辻村深月のとりこになります。

 

 

また、初期の辻村深月の作品では作品ごとにいくつものリンクがはられていました。

とある作品に登場したキャラクターが別の作品で思わぬ形で登場していて、ずっと会ってなかった友だちに久しぶりに再会したようなうれしい気持ちにさせられます。

 

今まではこれを味わうためには最低でも2作読まないといけませんでした。

しかし「かがみの孤城」ではミステリー要素が効果的に働いて、この一作だけで思わぬ再会の幸福感を味わうことができます。

 

 

さらにすべてを知った後だと「これってもしかして...!」と思わぬつながりを感じられる場面がいくつかあります。

 

たとえばこの場面。

 

 

フウカは机の上の勉強道具を見る。

「勉強は一番、ローリスクだから」

「へ?」

「才能があるかどうかなんて賭けに乗るより、地道だけど、一番確実な方法かもしれないって思うんだ」

嫌味に思われなければいいな - と思いながら、アキに言う。

(中略)

 

「私もやろうかな、勉強......」

聞き終えたアキがそうぽつりと言ってくれて、だからフウカも

「うん」と頷いた。

「そうしなよ。一緒にやろう」と。

 

 

これだけでもいい場面に思えますが、すべてが分かったあとだと全然意味合いが違います。

読み終わってから気づける仕掛けにまた涙を誘われます。

いったいどんだけ仕掛けてるんだよ。。。

 

 

感動作に恥じない完成度。だけど物足りない

この作品は感動作を謳われています。

その評判に決して恥じることのない完成度で、さすが辻村深月の一言です。

 

実際ぼくもかなり感動したのですが、それと同時にちょっと首を傾げました。

というのも、この作品はもっと感動作に出来たんじゃないかと思えて仕方ないからです。

 

 

前述した伏線であったり意外な結びつきなどいいところがいくつもあったため、すごい作品になりそうな予感がものすごかったのですが、いざ読み終えると期待をこえてくるものではありませんでした。

ミステリー要素が効果的で感動を生み出している反面、さらなる感動を抑えこんでしまったかな?と感じる部分もあります。

 

ただこの作品の感想を聞く限りみんな特に気にしていないようなので、ぼくが余計な期待をよせすぎていただけでしょう。

 

 

「かがみの孤城」まとめ

もっと感動作に出来たんじゃないかという思いはあるものの、辻村深月の魅力が存分に出た傑作で幸せな読書となりました。

 こういう作品を作り出してくれるから辻村深月のファンはやめられません。

 

一作で辻村深月の魅力を味わうことのできるので、まだ彼女の作品を読んでいない人も何作も読んでいる人もぜひ読んでみてください!

 

 

ちなみに「かがみの孤城」を読んだ辻村ファンの人の多くが、この作品はデビュー作である「冷たい校舎の時は止まる」のアンサーだと言っています。

 

ぼくはまだ未読なのでなんともいえないのですが、合わせて読んでみると思わぬ感動があるかもしれません。

気になる人はあわせ読んでみましょう。ぼくも今読んでいるところです。