満喫ぶろぐ

2つの吹奏楽団でTubaを演奏する楽器歴10年目。富山県在住。スピッツはたぶん一生好き。小心者でビビリながらも興味のあることはいろいろやってみるタイプ。

藤崎沙織「ふたご」の概要と感想。ふたごの兄弟のような親近感を覚える不思議な小説

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リュウです。

SEKAI NO OWARIでピアノを演奏しているSaoriこと藤崎沙織さんの初小説である「ふたご」を読みました。 

 

 

文藝春秋での商品紹介です。

 

 いつも一人ぼっちでピアノだけが友達だった夏子と、不良っぽく見えるけれども人一倍感受性の強い、月島。彼は自分たちのことを「ふたごのようだと思っている」と言いますが、いつも滅茶苦茶な行動で夏子を困惑させ、夏子の友達と恋愛関係になり、夏子を苦しめます。 それでも月島に惹かれる夏子は、誘われるままにバンドに入り、彼の仲間と共同生活を行うことになるのですが……。 ひとりでは何もできなかった少女が、型破りの感性を持った少年に導かれるままに成長し、自らの力で居場所を見つけようとする姿を描いた、感動の青春小説です 

 

 

セカオワファンであることと普段書いている歌詞などからおもしろい小説を書くんじゃないかという予感があったので読んでみました。

どこかタレント本感覚で読み始めましたが表現の仕方もうまくておもしろかったです。

別の作品も読んでみたいなと素直に思いました。

(ファンには"Saoriちゃん"という呼び方がなじみがあるのでこの表記で書いていきます)

 

「ふたご」の概要

 

本のあとがきによるとこの小説はセカオワがデビューして1年がたったころ、ボーカルのFukaseさんにSaoriちゃんが「小説書いてみなよ」と言われたことから書き始めました。小説を書いたことはなかったので自分の経験をベースにバンド結成の話を書くことにしたようです。

セカオワでの経験をもとに書いているので、物語の中にはセカオワファンなら聞いたことのあるやりとりや場面がいくつも登場します。

「お前の居場所は俺が作るから。泣くな」

「お前だけは誘いたくなかったけど、バンドメンバーもうお前でいいや」など。

これはどちらもFukaseさんがSaoriちゃんに実際に言った言葉です。

主人公の夏子はSaoriちゃん自身で、月島はFukaseさんがモデルだろうなとファンなら感じるでしょう。

他にもバンドメンバーのNakajinやDJラブをモデルにしたと思われる登場人物もいます。

全体としてはセカオワの実体験をベースにした物語です。

なお物語では夏子が月島に恋心をもっている様子が後半まで描かれています。

これは小説の設定でSaoriちゃんが実際に持っていた気持ちではないんじゃないかなと思っているんですがどっちなんでしょうか?

まあどっちでも小説のよさとは関係ないんですけどね。

 

印象に残った場面 

悲しいという感情

 

「私、友達の作り方が、全然分からないや」

 

泣きながら自分で言った言葉は、あまりに情けなくて、悲しかった。

 

自分が誰かの特別になりたくて仕方がないことを、私は「悲しい」と呼んでいた。誰かの特別になりたくて、けれども誰の特別にもなれない自分の惨めさを、「悲しい」と呼んでいた。

誰かに必要とされたくて、誰かに大切に想われたくて、私は泣いた。 

 

Saoriちゃんは昔いじめられていた経験があるので、この気持ちはSaoriちゃんが実際に味わったものだと受け止めました。

 

ぼくは専門学校に行っていたときは実習での自分の動きがよくなかったことでいじめのような扱いを受けていました。

振り返ってみるとそのころは自分の能力のなさが「悲しかった」し、誰にも認めてもらえないことが惨めで「悲しかった」です。

状況は全然違いますがぼくも同じような気持ちを味わったことがあったので、Saoriちゃんもそうなんだなと思ってなんだかほっとした気持ちになりました。

 

それにしてもこの表現うまいですね。セカオワの歌詞になりそう。

 

月島のパニック障害

すると、突然玄関の向こう側から叫び声が聞こえた。

月島......?

反射的に私の身体がびくっと震えた。獣のような声で、月島が絶叫している。玄関を挟んでいても、声が生々しく耳まで届いてくる。

どうして......?

私は急いで裸足のまま外へ飛び出した。

月島は叫び続けていた。玄関の前で、両手を抱えながら、自分に巣食う悪魔を振り払うように叫んでいた。

不思議な光景だった。私は玄関で立ちすくんで、月島に見入ってしまった。なんて美しいんだろう。

野生の獣のように、月島は美しかった。涙で塗れた髪が、頬に張り付いていた。 

 

月島はアメリカンスクールに通うもパニック障害になって帰ってきてしまいます。

パニック障害になったあと夏子の家を訪れてきますが、夏子が月島を刺激してしまい騒動となります。

 

このときのパニック障害の月島の描写がものすごくリアル。

月島の姿が目の前に浮かんでくるようで、読んでいて恐ろしくなりました。

自分の大切な人が壊れていく姿を見ていた夏子はどんな気持ちだったでしょうか。。。

 

音楽に人生をかける

 

月島は私の手を乱暴に払いのけた。

 

「このままじゃ上にいけないんだよ!」

急だった。声がびりびりと耳元に響く。

「俺にはもう、これしかないんだよ」

月島の目に、涙がいっきに溜まっていく。

 「もう本気じゃないならやめてくれよ。中途半端な気持ちでやるなら、やめてくれた方がいいんだよ。ずっと失敗ばっかりで、何にも上手くいかなかったから今度こそ俺は人生かけるって決めたんだよ」

私は声が出せなかった。月島の頬をすべるように、雨粒のような涙がぽろぽろと流れていく。

圧倒された。月島は、あの時に戻ってなんかいない。私は口をぎゅっと結んだ。

 

パニック障害の治療のあと、月島はバンドを始めます。

始めはバンドに入るつもりのなかった夏子もやがてメンバーになりました。

しかし1年たっても自分たちのライブハウスを作ることばかりやっていて音楽のことを何もやっていないことに月島が自分の思いをメンバーにぶつけます。

 

それまでの月島は何をやっても楽しいと思えず、高校も次第に通わなくなりアメリカンスクールに行ってもパニック障害になって帰ってくるほど人生がうまくいっていませんでした。

それでも音楽にすべてをかけ、本気で打ち込もうとしている月島の悲しいほどの感情が文章から強く伝わってきました。

 

ぼくだったらここまで苦しい思いをしてきたらこれ以上がんばろうとは思えません。

がんばれないことに苦しんでいた月島がこれほどの気持ちで音楽に打ち込もうとしているんだから、相当な覚悟と決意があったはずです。

月島が主人公じゃないのでどんな気持ちなのかは分かりませんが、夏子も月島の気持ちをハッキリ感じたんだと思います。

 

この後月島に追いていかれないように才能がないと苦しみながら必死にくらいついていく夏子の姿と、本気の思いが実を結んだ場面は感動的でした。

 

まとめ

ぼくの印象に残った場面はだいたい月島が関わっています。

どうも主人公の夏子より月島に感情移入してしまったんですよね。

夏子はなんだか自分の分身、それこそふたごのような感じがしていて夏子を通して月島や他の登場人物を見ている感覚です。

なんだか不思議な気持ちでした。

 

セカオワファンは実際のメンバーと重ね合わせて読むことができますし、セカオワふぁんじゃなくても満足できる内容だと思います。

ぼくはむしろセカオワのことをなにも知らない状態で読んでみたかったです。

  

ふたりの苦悩と本気の思いがどう終着するかぜひ読んで確かめてみてください。